この投資の核心は、「DX特需の追い風を受ける高品質なストックビジネス」と「純資産の36%超を占める過剰現金を抱える、創業家支配の内向きな資本政策」という構造的な歪みを利用し、「fundnote(保有比率5.8%)の登場」というカタリストによって抜本的な株主還元(大規模自社株買い)を促し、資本効率の劇的な改善による株価の再評価(Asymmetric Return)を狙うことにある。
割安性の再定義
同業他社との指標比較は以下の通りである。
F&MはPBR 3.25倍、PER 20.5倍と、市場から「成長株」として高く評価されており、一見して「割安」ではない。そのROE (14.6%) も、TKC (11.4%) やタナベCG (9.5%) を上回っており、事業の収益性は高い。
しかし、ここにこそ「構造的な歪み」がある。F&MのROE 14.6%は、自己資本比率76.4%という極度に保守的な(非効率な)資本構成の上で達成されているに過ぎない。競合の山田コンサルがROE 16.6%を達成しつつ配当性向50%超の還元を行っている事実と比較すれば、F&Mの資本効率は「事業ポテンシャル対比で著しく低い」と再定義できる。
B/Sの「宝の山」
2024年6月末時点のB/S(2025年3月期 Q1)を精査すると、この非効率性は明白である。
総資産: 約145億円
純資産 (自己資本): 約116億円(自己資本比率 80.1%)
現金及び預金: 約42億円
F&Mは、純資産の約36%に相当する42億円もの現金を、実質的に遊ばせている。政策保有株式や遊休不動産といった論点は小さく、非効率性の源泉はこの「過剰な現預金」に特定される。
この巨額の現金が活用されてこなかった理由は、経営陣のインセンティブにあると推測される。ストック型ビジネス(後述)の安定性をもってすれば、これほどの内部留保は事業運営上不要である。これは、株主価値の最大化よりも、創業家社長(森中氏)を中心とした経営陣の「手元資金を厚く保ちたい」という内向きな論理と保守的な経営姿勢を強く反映したものだ。
株主還元の本質
過去の株主還元は、配当性向30%弱(2026年3月期予想 29.7%)に留まっている。これは成長の果実(利益)から見れば「場当たり的」かつ「低水準」な対応と言わざるを得ない。自己資本比率が80%に達しようとする中で、いまだに利益の7割を内部留保し続ける正当性はない。この「しがらみ」こそが、fundnoteのようなアクティビストにとっての「隙」である。
ガバナンスの形骸化
F&Mは、1990年に森中一郎社長が設立した典型的な創業者オーナー企業である。取締役会は森中社長のほか、1990年入社(奥村氏)、1991年入社(小林氏)といった古参の生え抜き役員で固められている。
最新のコーポレート・ガバナンス報告書(2025年6月付)を分析しても、独立した「指名委員会」や「報酬委員会」の設置は確認できない。報酬決定プロセスは取締役会および監査等委員会が担うとされているが、創業者社長の影響力が絶大な構成において、経営陣のインセンティブ(報酬)が資本効率や株価と強く連動しているとは考えにくい。
このガバナンス体制こそが、B/Sに42億円もの現金を滞留させ、配当性向を30%弱に抑え込むという「内向きな論理」を許容してきた構造的な課題そのものである。
競争優位性の誤解
F&Mの競争優位性は本物である。中小企業・個人事業主に対し、会計・労務等のバックオフィス支援をサブスクリプション(ストック型ビジネス)で提供し、4万社以上の強固な顧客基盤を持つ。サービスは低価格で、一度導入すると乗り換え障壁(スイッチングコスト)が非常に高い。
問題は、この「強固な事業」が「非効率な資本政策」の免罪符となってきた点にある。経営陣は「事業が強いから問題ない」と考え、投資家は「事業が強いから(資本効率の悪さには目をつぶり)高PBRを許容する」という暗黙の均衡が続いていた。
再編のチェス盤
中小企業向けBPO・SaaS業界は、まさに「インボイス制度」および「電子帳簿保存法」という法改正の特大の追い風を受けている。DX対応は待ったなしであり、F&Mのサービス需要は爆発的に増加している。
この環境下で、F&Mは「クイーン(最強の攻撃駒)」のポテンシャルを持つ。しかし、その機動力(資本)の半分近く(42億円の現金)を使わずに盤面に滞留させている。fundnoteの介入は、この「動かざるクイーン」を強制的に動かし、業界のチェス盤を揺るがすものだ。F&Mが自ら資本効率を改善し、M&Aなども含めた成長戦略を加速させるのか、あるいは非効率なまま他社(例えばTKC)からの買収対象(ポーン)となるのか、岐路に立たされる。
追い風と向かい風
追い風(強力): インボイス制度・電帳法対応に伴うDX・BPO需要の激増。人手不足によるバックオフィス業務のアウトソース化の流れ。
向かい風(限定的): SaaS市場の競争激化(ただしF&Mは既存顧客のロックインで優位)。
マクロ環境は、F&Mの事業(P/L)にとって絶好の追い風である。この「事業の強さ」が、投資戦略における強力なダウンサイド・プロテクション(業績悪化による株価下落リスクの低さ)として機能する。
本件は、我々が過去に成功した「[過去の成功事例1:過剰資本を抱えるオーナー企業]」や「[過去の成功事例2:事業は好調だがガバナンスが緩慢な企業]」のパターンと完全に一致する。
すなわち、**「①強固な事業基盤(ダウンサイドの限定)」「②B/S上の明確な非効率資産(=過剰現金)」「③経営陣のインセンティブを歪ませる緩慢なガバナンス(=創業者支配、独立委員会の欠如)」「④外部からの触媒(=fundnoteの登場)」**という、非対称なリターンを生み出すための全ての条件が揃っている。
短期(〜1年):
大規模な自己株式取得枠の設定要求: 過剰現金42億円のうち、最低でも25億〜30億円規模(時価総額の5%超)の自社株買いの実施を強く要求する。
配当方針の抜本的変更要求: 配当性向を現状の30%弱から、競合(山田コンサル)並みの**「50%以上」**へ引き上げるよう要求する。
IRの改善: 資本効率(ROE、ROIC)に関する具体的な目標値と、その達成に向けたロードマップの開示を要求する。
中期(1〜3年):
ガバナンス体制の刷新: 独立した「指名委員会」「報酬委員会」の設置を要求。取締役会の過半数を独立社外取締役とするよう求める。
経営陣のインセンティブ改革: 経営陣の報酬体系を、P/L(売上・利益)偏重から、ROEおよび株価パフォーマンスと強く連動するものへ変更するよう要求する。
事業ポートフォリオの見直し: 説明資料で「営業損失」と指摘されているシステム開発事業など、不採算部門の整理・売却を検討させる。
長期(3年〜):
持続的なROE 20%超の実現: 資本の最適化(自社株買い)と事業成長(DX特需)の両輪により、日本企業トップクラスの資本効率を実現するビジネスモデルへの完全な転換を促す。
市場がその「事業の成長性(P/L)」を高く評価する一方で、その裏に隠された「資本の非効率性(B/S)」と「ガバナンスの緩慢さ」という巨大な歪みを(fundnote登場まで)見逃してきた点にあり、その最大の根拠は、**純資産の36%超(42億円)という定量的に明らかな「過剰現金」**である。
この投資の成否を分ける最大の変数(Key Variable)は、**「創業者である森中社長が、外部株主(fundnote等)の圧力に対し、従来の保守的な資本政策を転換し、大規模な株主還元(特に自社株買い)を実行するか否か」であり、想定される最大のリスクは、「経営陣がエンゲージメントを完全に拒否し、株価がDX特需の期待剥落と共に(資本効率が悪いまま)下落に転じること」**である。
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